テレマーク散歩
 

旧国道5号線を歩く

文・写真:小笠原 彰

旧国道5号線は倶知安駅の北側、基線通りから二世古酒造の前を折れてゆく狭い道だ。左手に旭ヶ丘スキー場から連なる丘があり、その斜面にはカラマツが立ち並ぶ。

数件の民家があり「家の周りは1センチの積雪も許さない」とでもいうような、神経質にも見える丁寧さで除雪をしている。

「おや、写真を撮りにゆくのかい?」

「はい、このさきの踏切まで行ってみようかと」

「そうかい、いやー、ご苦労だね」

笑って、そう言葉を交わす。

除雪された道の終点。この先に民家は無い。

重機が押した雪が小山になり、そのあとは除雪されていない道路がつづく。

担いできたテレマークスキーを肩から下ろす。

ニセコほど雪の深い土地では、スノーシューで長い距離を歩くのは骨が折れる。ぼくが愛用しているテレマークスキー、それもウロコ板(ステップソール板)ならブーツのかかと部分が固定されていないため歩きやすい。斜面があればもちろん滑ることも出来る。

ぼくの身長よりも高い189cmの板の面積は深雪に対しても十分な浮力を生み、接地面に刻まれたウロコ状の出っ張りが雪をつかみ推進力を生む。ちょっとした登りでもこの板ならそのまま進んで行ける。

近所を散歩するのにスキー場で使うようなゴツいスキーブーツは似合わない。テレマーク用の革ブーツなら玄関から履いて、板とストックだけ担いで気軽に歩きまわることが出来る。

この道を冬に歩くのは初めてだ。

数キロ先の踏切から鉄道が見られること以外には、何の変哲もない田舎道。左手には雑木林があり、右手の川の対岸は団地、植林の針葉樹林、雑木林そして雪原へと変化してゆく。

もともとの原生林は、ここが国道だった時に伐採されたのだろう。国道がただの山道に格下げされ、育ちの早いシラカバなどが根を下ろし、この雑木林になった。あと数十年もすれば雑木林は姿を消し、徐々にこの地域本来の植生に立ち戻ってゆく。

キツネの足あとが道路を横切り、山へと向かう。

シマリスが驚いた表情でこちらを見つめ、あわてて奥の木を駆け上る。

小鳥たちがピーピー叫びながらやってきて、樹上でエサを探しまわる。

アカゲラやシジュウカラ、ゴジュウカラ、そしてシマエナガなど冬の残留組。

退屈で豊かな雪道の先へ急ぐ。そういえば1時間に一本しか来ない鉄道を撮影するのが目的だった。ぼくは雪原の真ん中であわてて三脚を伸ばす。遠くから聞こえる汽笛。ファインダーに映る、雪煙をあげて走るディーゼル車の姿。

200mmレンズのピントを合わせ、シャッターにかかる人差し指に軽く力を込める。

【了】

おがさわら あきら

1975年、北海道室蘭市生まれ。ボディセラピスト、ダンサー、ウェブ制作者。

20代前半は東京でバレエダンサーとして活動する。その後ウェブ制作会社で働きつつヨガやマッサージを学び、30歳を機に山好きが高じて北アルプス3000mの稜線で働き始める。地元ニセコに戻ってからテレマークスキーをはじめ、『テレマーカーはモテる』という噂の真偽を確かめている。今も休みの日は山に行き、ウロコ板で歩きまわり、バードウォッチングをし、写真を撮る。