– シリーズ 私の好きな山 01 –
昆布岳

人には皆、自分の好きな山がある。滑走好きが語る、私の好きな山。
第一回は昆布岳。滑るところが少ない(?)大人の遠足的BCツアー。
文・写真:沼尻賢治

昆布岳遠景

 昆布岳、やりたいんだけど……本州から滑りに来るテレマーク仲間から連絡があった。
 昆布岳はニセコ町の我が家から南の方角によく見える山。朝に夕に陽に染まる姿は、とても美しい。聞けば、前年、我が家から烏帽子のようなその山を見つけ、昆布岳という名前を確認した際、行ってみたいと思ったのだそうだ。
 羊蹄山やニセコ連山と比較して、昆布岳は滑走者にとってはマイナーな山。その姿はニセコの誰もが知っているが、実際に滑ったという話を聞いたことがない。困ったときに行くべきところはひとつ。早速、ヒラフの『トイル』へ情報を集めに行った。
 『トイル』は僕にとって“ニセコへの入り口”。数年前、初めてニセコを訪れた際、僕は高梨さんのテレマークレッスンを受けた。高梨さんは初めて僕の“ヒザを折ってくれた”恩人。以来、僕は高梨さんを師匠と決めた。
 師匠曰く、昆布岳は誰かに誘われて一度だけ行ったことはあるが、あまり記憶がない。烏帽子状に切り立った山頂付近以外は滑るところは、ほとんどないとのことだった。
 そんなこんなを友人に伝えたが、友人の決心は揺るがない。4月某日、友人夫妻と僕ら夫婦4人のテレマーカーの昆布岳ツアーが実施された。

雪原を歩く3人

 地図上で目星を付けていた川沿いの林道に車を起き、出発。畑を横切るため、消雪剤を撒きに来ていた農家さんにごあいさつ。昆布岳を目指すと伝え、アプローチの尾根を確認した。
 雪原を横切ると開けた視界の向こう、遠く昆布岳が見える。だいぶ遠い。おしゃべりをしながら進み、いよいよ尾根に取りかかる。今回は4人ともステップソールの板を履いているため、穏やかな傾斜はシール無しでも上れる。取っ付きはやや急ではあるが、ジグを切って上がる。10分ほどで、急斜面を過ぎ、低い丘の上に出た。
 実はこの斜面が一番急で、以降、尾根筋に沿って、ずっと穏やかな斜面が続くだけなのだ。遥か前方に昆布岳を望み、淡々と尾根の背を上る。まさにステップソール向きのお散歩コース。上りがラクということは、下りも単調ということだが、そんなことを今更気にしても仕方がない。尾根の背に沿って、ひたすら高みを目指す。ちなみに、前方に目指す昆布岳が見えるこのコースは晴れた日に限る。

振り向く3人

 いくつかの小ピーク(というほどのものでもないが)を過ぎ、日当りの良い尾根でランチを楽しんだ後、また淡々と上る。遠くからチェーンソーの音が迫って来る。森林伐採作業中の人の脇を通過し、また上ると、いよいよ目の前に烏帽子が大きく迫って来た。解放的な尾根からはニセコ連山、羊蹄山、洞爺湖、遠くは駒ヶ岳まで見渡せる。

羊蹄バックで上る人

 天気は良いが、風が強い。雪面は徐々にクラストし、硬くなってゆく。最後の数百メートルは板を担ぎ、ツボ脚で進み、やがて昆布岳直下に到達した。唯一の滑走斜面が目の前にそびえる。いつも遠く眺めるピークも、ここまで来るとぐっと迫力がある。
 あいにくの強風のため、雪はカチカチ。滑っても楽しくなさそうだ。友人夫妻は滑れなくても、ピークを踏みたいというが、アイゼンもピッケルも、そしてザイルもない状況で最後を詰めることは危険と説得。後ろ髪を引かれながらも、風を避けられる場所までクラストした斜面を注意深く、高度を落とした。

山頂直下で座り込む人

 復路は上って来た尾根とは別の隣の尾根を選択し、地図とGPSで確認しながら滑り降りた。上り同様、優しい緩斜面が続く。樹林も適当に疎で、とても滑りやすい。滑っては歩き、歩いては滑る。こういうシチュエーションではステップソールの機動力はうれしい。途中、大きなブナの下でコンロを出して、お茶を楽しむ。友人曰く、関東にこんな尾根があったら大変な人気だろうに……パウダーばかりに注目が集まるが、春、こんなに素敵なツアーが出来るのも、またニセコなのだと知る。さらに尾根の背をゆるゆると下り続け、車まで無事に戻った。

GPSを確認する人

 師匠の言った通り、滑るところは少ない。滑走志向が強いニセコの滑り手にはおおよそ物足りないツアーだが、晴れた春の1日、テレマークのステップソールで遊ぶには楽しいツアーだった。まさに大人の遠足的BCツアー。次回はKODAMAの仲間たちといっしょに行ってみたい。
【了】

昆布岳遠景

ぬまじり・けんじ
1962年、神奈川県川崎市生まれ。帽子職人、編集者。40歳を過ぎて出会ったテレマークスキー。東京で編集の仕事をしながら、年に数日の滑走では“間に合わない”と感じ、2012年ニセコへ移住。自宅でオーダーメイドの帽子屋を営みながら、冬はテレマーク修業に勤しむ生活をおくっている。滑走志向の強いニセコにおいて、ステップソールの普及活動を密かに試みている。