-2015〜16年シーズン-
ニセコの気象

雪深いニセコの地にも本格的な雪解けの季節が到来した。この冬はどんな冬だったのか、地元に住む気象の専門家の視点で書いてみようと思う。
文:新美和造

積雪降雪観測.
樺山観測所の最近の様子(右の棒で積雪を観測,左の板で降雪を観測)

 気象予報士の資格を持っているということもあって、これからの天気のことを聞かれることが多い。そんな時、いい加減に答えるのが嫌なので、冬の間は毎朝毎晩、自宅の庭で積雪と降雪を観測(写真)し、プロが予報に利用する専門天気図や雪雲のレーダー画像や雲の衛星画像、アメダスのデータなどといった実況をチェックしている。専門天気図ならHBCのホームページ、レーダーや雲画像やアメダスなどは気象庁のホームページなど、ほぼすべて無料で閲覧できるウェブ上のものが利用できる。唯一、「アンヌプリ山頂の天気」として知る人ぞ知るページを作成するために使っている詳細な数値予報データのみ某社より有料で購入している。

ニセコの冬まとめ2016_図1図1:樺山観測所の積雪・降雪推移

 まずは図1を見てほしい。この図は自宅(グランヒラフスキー場の山麓近く)の庭で測っている積雪と降雪のデータである。折れ線グラフが過去5年分と過去10年でもっとも雪解けの早かった2008年の積雪の推移。棒グラフがこの冬の降雪量の推移を示している。今シーズンは最近5シーズンで一番雪が少なかったことがわかる。ただし、過去にはもっと雪の少なかった年もあって、2008年や2007年は今年よりもさらに雪が少なかった。降雪の棒グラフを見るとドカ雪はないものの、12月下旬以降は比較的コンスタントに雪が降っていた様子がわかる。

ニセコの冬まとめ2016_図2図2:この冬の倶知安の積雪(気象庁データ)

 次に気象庁が観測している倶知安の積雪を見てほしい(図2)。データは気象庁のホームページから取得したもので、この図では平年値(30年間の平均値)とこの冬の積雪の推移が比較できる。12月はかなり雪が少なかったが、その後12月下旬に一気に盛り返し、1月は平年に近い積雪を記録している様子がわかる。2月には暖気が入って積雪もかなり減ってしまい、平年よりかなり少ない状態が続いたものの、2月下旬から寒気の影響で盛り返して、ときどき平年を上回る積雪を記録している様子が見て取れる。ただし、シーズンを通してみるとやはり雪は少なく、平年を上回ったのはごくわずかの期間しかなかった。

ニセコの冬まとめ2016_図3図3:この冬の地上と上空の気温の推移(気象庁データ)

 図3は倶知安の日最高気温の推移と、札幌でラジオゾンデ(水素ガスを入れた風船に観測機器をつけて上空に飛ばし、気温や湿度、風を観測する機械)によって観測されている上空の気温の推移である。こちらも気象庁のホームページから取得できる。この図を見てもなかなかこの冬の傾向をつかむことは難しいが、12月中旬までは地上、上空とも気温が高め、12月下旬から2月初めまではほぼ平年並み、2月中旬以降は気温の変動が激しくなっている様子がわかる。
 850hPaや500hPaといった上空の気温の推移は日々の天気を予測する上で非常に重要なデータとなる。たとえば850hPaは真冬だと上空1300mくらいになって、ちょうどアンヌプリ山頂と同じくらいの高さである。850hPa気温は雨雪の境目を判別する際に大変参考になり、地表近くの日中の気温を決める重要なデータとなる。500hPaは上空5000m付近になり、その気温は上空の寒気の強弱を知る上で非常に重要で、大雪や冬型による風雪の強まりを予測する際に注目するデータである。冷たい空気は重く、暖かい空気は軽いため、上空に非常に強い寒気が入って下層は暖かい状態だと、大気の状態が不安定になって上昇気流が発生し、雪雲が発達しやすくなる。このため850hPaの気温や海面水温と500hPaの気温の差が大きくなると、それだけ大気が不安定になって雪雲が発達し、大雪や吹雪となるわけである。
ニセコの冬まとめ2016_表
表:旬別の気温と降雪量、右列は平年比(すべて気象庁データ)

 以上の予備知識を頭に置いた上で、上の表を見てほしい。こちらは旬別に倶知安の最高気温、降雪量と札幌の上空の気温を平年との比較で示したものである。この表を見ると、この冬の気温は平年より若干高く、降雪量は平年よりかなり少なかった様子がよくわかる。特に注目してほしいのは、札幌の500hPaの気温が平年より1℃以上低かった時期が2月下旬と3月下旬のみで、平年より1℃以上高い点である。
 850hPaの気温は平年と比べて特に高くはないものの、500hPaの気温は平年より高かったことがわかる。この冬の特徴として言えることは、下層には強い寒気が入ることもありほぼ平年並みの寒さだったものの、上空の寒気は一貫して弱く、その結果として降雪量がかなり少なかったということである。
この冬のニセコは決して極端な暖冬ではなかった。ただ、降雪量が少なかったのは厳然たる事実で、その原因は上空に強い寒気が入らなかったことにあると言えよう。

【了】

にいみ かずぞう
1969年京都生まれ、倶知安町樺山在住の気象予報士。
雪、山、雲、温泉をのんびり楽しむのが大好き。趣味はスキーとランニング。高校卒業後に北海道の大学へ進学し、北海道の自然に魅了される。気象の現場で仕事がしたくて11年間気象庁に奉職するものの、長くなりそうな東京暮らしに耐えられなくなり、2006年春からニセコ山麓に移住。自然を相手に仕事をしている人の多いこの地で、もっと身近に気象の情報を届けられるようにしたいと思っている。