冬の顔と夏の顔
 

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文:みやのゆきこ

 私が“無類の森好き”になったのは、忘れもしない2008年の2月のこと。当時、東京で病気療養をしていた私は、どうしても雪の上に立ちたくて、周囲の力を借りながらニセコへ滑りにやって来た。
 闘病生活で疲れきった身体と、後ろを向いたままになった心、不安でいっぱいだった私が、「さあ行くよ!」と連れて行かれたのが、今は閉鎖された『チセヌプリスキー場』だった。

 3歳のころからスキーをやっているのにも関わらず、初恋の人に出会ったようなドキドキ感の中、二人乗りリフトに乗り込んだ。終点に着き、搬器からお尻を上げ、スーッと滑り降りた瞬間の気分は一生忘れられない私の宝物だ。
 「は〜ふ〜」と大きく深呼吸すると、冷たい空気で身体中がいっぱいに膨らみ、足裏からは雪の感触がビンビンと伝わってくる。生きていること、そして動けることへの感謝を噛み締めながら「よし、ゆっくり足慣らし」と思っていた矢先……「こっち! 早く行くよ」と導かれたのが、スキー場裏手の森の中だった。不安な心を感じる余裕もなく、私は無我夢中で滑り降りた。
 ふと立ち止まると私は大きなダケカンバの森に包まれていた。それはとても暖かく、なんとも言えない心地よさ……私は一瞬にして森にやられてしまった。
 それからというもの、私のニセコ通いがはじまり、今ではアパートを借り、年間半分近くはニセコで生活をするようになった。

 本州で生まれ育った私にとって北海道の森はとても興味深い。なぜならミズナラやダケカンバなど落葉広葉樹の森が無数に広がっているからだ。しかも木の大きさといったら半端ではない。冬には葉が落ち、むき出しになった太い枝が、大きく伸びている姿を目にするが、本州で目にする木とはとても同じものとは思えない。北海道の過酷な自然環境と生存競争を勝ち抜いたものだけが持つその姿は、とてもたくましく、命のエネルギーが溢れ返っている。

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 冬のある日、花園スキー場の横にある鏡沼へ“スキー散歩”へと出かけてみた。スキーで滑り降りた先には、雪に埋もれた鏡沼の平原が広がっている。それを横目に見ながら、スキーを滑らせていくと、見事なミズナラが私の前に佇んでいた。雪だんごを載せクネクネと枝を横に張る勇姿は、長い年月にわたる自然との厳しい闘いを彷彿させ、時間を忘れて見入ってしまった。
 それからというもの、鏡沼へ行く際には、かならずそのミズナラに会いに行くことにした。

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 そして、その夏。私は山用のコンロを持ち、コーヒーでも飲もうと鏡沼に散歩へ出かけた。冬の平原とは打って変わり、緑溢れる鏡沼は草花や虫など生きものの聖地となっていた。そんな様子の違いを楽しみながら、ブラブラと沼の周りを歩いていたとき、私の目を捉えて離さないものがあった。それは、雪がある間、いつも会いに行っていた、あのミズナラだ! 冬は幹が雪に埋もれて、とても近くにある枝が今は遥か頭上で、これでもかというほどの葉におおわれ、風でユッサユッサと揺れている。冬の顔と夏の顔、これほどまでに違う表情があるものだと思わず唸ってしまった。
 それは雪のありがたさとスキーの素晴らしさを痛いほど感じる瞬間だった。そう、スキーができるからこそ、冬の顔にも出会うことができ、こんなにも多くの感動を得ることができるのだ。今シーズン、花園スキー場はもう営業を終えてしまった。この冬も会えたミズナラに、夏また会いに行ってみよう。
【了】

IMG_1643みやのゆきこ

東京都世田谷区生まれ。スキーガイド/教師/ピラティスインストラクター。
幼少のころ群馬・奥利根地方にて山スキーを始め、全日本や国体に出場と根っからのスキーっ子。年齢を重ねるとともに“自然・健康”がテーマとなり、そのライフスタイルも変化。現在は東京とニセコの半々生活を送っている。夢はスキーと山歩きで世界各国を旅したい!……けれども、犬と暮らす生活への憧れも捨てられないワガママ女子。