町営旭ヶ丘スキー場のこと

文・写真:峠ヶ孝高/KODAMA

 朝9時。ピンポーンというリフト乗り場の乗車合図の音とJ-POPのBGMが流れ、スキー場の1日が始まる。ここは『倶知安町営旭ヶ丘スキー場』。毎年、12月23日にオープンし、年末年始と月曜日は定休日。『NISEKO UNITED』のように外国人スキー客の姿はなく、レストランやショップなどもなく、リゾートという雰囲気はまったくない。1本のペアリフトに上級コースと迂回コースの2コースと、徒歩で登って滑るソリコース。スキー場周辺にはクロスカントリースキーのコースがいくつもある。

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 平日は静かで、数人がスキーの練習をしていたり、まだ学校に通う前の小さな子供がお母さんと遊んでいたりしている。休日ともなるとお父さんが子供を連れてプラスチックスキーで滑らせていたり、お母さんと赤ちゃんがソリ遊びをしていたり、小学生は仲間同士で急斜面をかっ飛んでいたり。町内外の家族連れや子供たちで賑わう。
 15年前、僕が倶知安町に移住して来て以来、この光景は時間が止まっているかのように、毎年変わらない気がする。おそらく、それはもっともっと以前から……。
 お父さんに教えてもらっていた子供は親となり、自分の子供とスキーをする。お父さんはおじいちゃんとなり、子供と孫が滑っている姿を微笑ましく見ている。
 僕も今は子供といっしょに、この風景の中にいる。
 パウダースノーを巻き上げてハイスピードで豪快にターンをするような派手さはないけれど、雪とともに暮らす倶知安町民の“雪を楽しいものにする日常”がここにはある。雪のないところから移住して15年、ようやく雪が“日常にある楽しみ”になったのだと実感する。

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 この冬、僕はスノーランニングをひんぱんに行うようになった。もともとは夏にやっているトレイルランニングのための体力維持が目的だったが、冬は家から一歩外に出ると足元のコンディションはトレイルランニングと同じ状態。いやそれ以上。氷が張ったところで滑ったり、深い雪に足を取られたり、気温も常にマイナスなので体力の消耗も激しく、難易度は格段に上がる。
 わずか標高290メートルほどの旭ヶ丘はスノーランニングに最適だ。一周約2キロのトレイルを数周するだけで、マイナス10度の寒さでも汗が滴り落ち、凍り付き、顔中が氷柱だらけになる。
 周囲の音は雪に吸収され、寒さがつくる独特のピーンと張りつめた空気の中のランニングは、なにかと忙しい冬の自分だけの貴重な時間だ。

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 スノーランニングをするようになって気がついたことがある。凍った路面で滑って転んだり、うまく蹴り上げられず、脚が空回りしてしまうのは、靴が滑るからだと思っていた。だから、滑りづらいソールの靴を探したり、スパイクを装着してみたりしていた。しかしそうではなかった。
 足の指の使い方、置き方、ピッチを刻むリズム、上体のバランスのとり方など、自分のカラダがちゃんと使えていれば滑らないで走ることができるのだ。しかもペースも上げられる。疲れ方も全然違い、楽しく走れるようになる。
 今まで靴のせいにしていたことの原因は、実は自分にあるということに気がついた。
 それはなにもランニングに限ったことではなく、普段の生活にも当てはめることができるのではと考えるようになった。ネガティブな状況をどうポジティブに変えるか。今ある状況をどう楽しむか。その中核にあるのは、常に「自分がどうあるか」ということ。たとえば、この標高290メートルの丘をどう楽しむかは自分次第というように。

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 2017年元日。例年になく穏やかな天気の正月。初日の出を見ようと旭ヶ丘へ向かった。旭ヶ丘スキー場は定休日。290メートルの頂上には暗いうちからヘッドライトを着けて登っていた先客がいた。後からも次々と人が集まって来た。登ってくるスタイルはみんなそれぞれ。スノーボードを片手に持っていたり、スキーにシール、歩くスキー、スノーシュー、散歩……。知り合いもいれば、初めて会う人も。それぞれが自分の楽しみを求め、自然とそこに集まっていた。
 普段は正面に見える羊蹄山の方から昇る初日の出は残念ながら雲の向こう側だったが、それぞれがそれぞれの楽しみ方で麓まで下りる光景は、自分の楽しみを広げる光景だった。

 翌日は冬休み中の子供たちや多くの家族連れがスキーやソリ、クロスカントリーなどを楽しむ風景。たくさんの笑い声や熱心にスキーを教える声、子供を叱る声などで賑わういつもの旭ヶ丘スキー場があるだろう。
 施設が整ってなくてもいい。不便でもいい。変わらなくていい。日々生活の一部として雪と関わる人にとって、旭ヶ丘は当たりまえに街の風景として存在し、雪を楽しいものにする貴重な場所なのだ。

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とうげ・よしたか
千葉県出身、2004年に北海道のニセコに移住。カヤックインストラクター、スキーパトロールなどを経て、2009年にコーヒーとニセコのアウトドアスポーツをはじめとしたカルチャーが集まるカフェ『SPROUT』を開業。現在はコーヒーを勉強しながらスキーやトレイルランニング、カヤック、3人の息子たちとの遊びと、アクティブな日々を過ごしている。