滑走とケガ
その1:倶知安厚生病院の整形外科医に聞く

文・写真:沼尻賢治/KODAMA

 しないに越したことはないのがケガ。けれども、スポーツに怪我はつきもの。万が一、ニセコのスキー場や周辺の山でケガをした場合、あるいは救急車で搬送される場合にお世話になるのが倶知安厚生病院。特にスキーに多い捻挫や骨折などを担当するのが整形外科だ。

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 今回は同病院の整形外科医・田辺明彦さんにニセコのスキー場にまつわるケガについてお話をうかがった。同院に赴任6年目の田辺さん。道産子で、自身がテレマークやスノーボードを愛する滑りの人。ニセコを始め、北海道の滑走事情にも通じている。インタビューは、2017年1月14日、シーズン序盤に行われた。

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Q:整形外科では、どのようなケガを担当されているのですか?
A:整形外科では骨、腱、筋肉、神経、血管を相手にしています。基本的には首から下の四肢と背骨が対象です。ちなみに、顔面骨は耳鼻科や形成外科の担当になります。

Q:倶知安厚生病院に救急搬送されるスキー場の管轄はどこまでですか?
A:原則的には『NISEKO UNITED』の4つ、モイワ、町営旭ヶ丘、ルスツ、そして岩内。羊蹄やニセコ山系のバックカントリーで起きたケガ人の搬送もあります。

Q:軽い捻挫くらいでも、救急車で運ばれてくるのですか?
A:軽い捻挫でも歩けないという場合は、やはり運ばれてきます。たとえば、外国人の方は大抵、救急車は有料だと思っています。ですが、無料だとわかると「じゃあ乗っていく」と。ただ、帰路は自分で帰ることになるので、タクシー代がすごくかかるというケースも見受けます。

Q:お忙しいのは、やはり冬ですか?
A:倶知安厚生病院に限って言えば、4月から12月までは70歳以上の方が多いのですが、1月から3月の間は急に10代、20代の若い人が来るという傾向があります。
 春・夏・秋は地元の人ばかりですが、冬は道外の人たちの割合が増えます。手術をするような人は脚が折れて動けなくなった人。それ以外の歩ける人たちは初期治療ばかりで、本格的な治療は自宅へ帰られてからされます。

Q:ニセコならではのケガの傾向というのはありますか?
A:たとえば、大腿骨(足の付け根の部分)の骨折などという大ケガは、年間を通じてあるにはあります。ですが、高齢者が転倒した場合とスキーの場合では骨折する場所が異なります。交通事故や高所から転落でもしない限り折れない部分が、スキーのケガでは折れるというのも特徴的です。日常の動きではないスピードで何かにぶつからないと、そうはなりません。

横から
撮影:川尻亮一

Q:シーズンによって、ケガの傾向って変わるのですか?
A:統計も取っていますが、あまり変わりがないようです。でも種目による特性はあります。スノーボードだと約50%が上肢・腕のケガです。25%が下肢・脚で、25%が背骨です。これがスキーですと、全体の50%以上が膝です。約60%が下肢・膝と股関節など。20%くらいが上肢・腕のケガ。20%が背骨という割合です。

Q:時期によって、ケガの傾向が変わりますか?
A:今シーズンは雪が少ないので、コース外へ行って立木に激突というケガはまだ少ないです。コース外を滑る人のケガの割合は1割以下。ですが、大ケガが多い。もともと、ちょっと転んだりしない人たちなので、小さなケガはしないのでしょう。けれども何かに衝突するとか、転落するとか、ダメージが大きいケガにつながりがちです。
 ローエナジー損傷、ハイエナジー損傷と呼んでいますが、初めてスキーを履いた人がコース内で膝をひねったというのと、コース外を滑る人のスピードは次元が違うので、損傷の度合いが異なります。

Q:今シーズンは人対人の衝突事故が多いと聞いているのですが?
A:シーズンも始まったばかりですし、統計も取れていませんが、多いという印象はあります。先日も5歳のお子さんが両親と一緒にいて、外国人に衝突されました。お父さんはその外国人を捕まえて、住所などを聞いたようですが、そうした事故の対応経験もありませんし、その後、どう対応すべきなのかはご存知ありません。そのご家族も道外の方でした。ケガを負わされた側にしてみれば、なぜ被害を受けた側なのに自腹で治療費を支払うのかって。年齢にかかわらず、リフト待ちなど、止まっている時に後ろから衝突されるケースが多いようです。ある患者さんは衝突されて、肩を骨折していましたが、相手に逃げられたと言っていました。

Q:ご自身はスキーやスノーボードでケガをされたことがありますか?
A:スキーでは転んで肩鎖関節(肩甲骨と鎖骨の間)の脱臼、あと指の骨折などがありますが、大ケガはありません。

Q:多くの患者さんを担当なさっての感想を教えてください。
A:実はニセコへ赴任するまで、これほどまでにスキーやスノーボードでケガ人が出ているなんて認識していませんでした。過去の赴任地は、地域に病院も多く、患者さんが散らばっていたとは思うのですが、それでもこれほどまでとは思っていませんでした。

Q:最後にケガをしないために良い方法はありますか?
A:そうしたことはいつも考えているのですが……正直、あまりいい方法は思いつきません。決定的なケガの予防方法って何でしょうか? たとえば、頭のケガを防ぐにはヘルメットをかぶるのがいいと思います。では、膝のケガの予防のため、全員が膝の装具を着けるのか……それはとても現実的とは思えません。それをつけたことにより、今度は別のところに負担がかかり、そこが折れるという心配も出てきます。常に何かいい方法はないかと考えていますが、未だ決定策には至りませんね。
 カービングスキーが出現してターンがしやすくなった反面、エッジの食いつきが良くなってしまって、膝の靱帯損傷が増えたというのは聞いたことがあります。私がこちらで働き始めたときは、もうカービングの時代だったので実感はありませんが、カービングの登場でジュニア世代の靱帯損傷が増えたことが、ワールドカップの大回転などのスキーのラディウスに規制がかかった一因だと聞いています。
 もう、メーカーとしてもカービングスキーを作らないという選択肢はないと思いますから、20年ほど前に「サロモン」で出していた「Xfree」のような、トップだけ太くて、テールは昔ながらの細めのスキーだと、ターンの開始はしやすくて、ターン後半の食いつきは適度で、膝に負担がかからずにズレてくれる(ズレてしまってターン後半の走りは楽しめない?)と思うので、高齢者、初診者向けのレンタルスキーは、そういうシャモジみたいなスキーが良いのではないかと思ったりします。最近では「KEI-SKI」が初心者向けにテールが極端に短いスキー(ESCORT)を発表していましたが、ああいったモノは良いかもしれません。あくまでも個人的な意見ですが。

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【まとめ】
 インタビューのため病院に伺ったのは昼の12時。ロビーにはケガ人と思われる松葉杖をついた人が何人か見受けられた。外国人の姿もあった。お昼以降、午後3時くらいには、さらに混み合うのが常だという。40分ほどのインタビュー中にも急患を告げる携帯がなった。
 ケガをしたくてする人はいない。けれども、ケガは突然やってくる。単独の場合もあれば、他人を巻き込むこともある。ケガをして動けないような状態になれば、同行者やスキー場パトロール、そして救急隊員や医師の世話になることになる。場合によっては、救助の人たちを危険にさらすこともある。
 滑走はあくまでもパーソナルなものだが、スキー場のように多くの人がいる場所では、周囲への配慮も怠ってはならないだろう。さらに、ケガをすれば、パーソナルなものだとか言ってはいられないようになるのだ。常に自分の行動そのもの、あるいは周囲に対する配慮が大切なのだと感じた。
 3月終盤、千歳からのリムジンバスの運行が終わると、ケガ人は減るのだそうだ。客層に大きな変化がある証拠だろう。
 客層といえば、今シーズンの12月はアジア系のビギナーのケガ人が目立ったという。新たに増えていると聞く、タイやシンガポールからの人たちだ。雪の上を歩くことすら初めての人たちがスキーを履くのだ。危険度は高い。こうした超初心者に対するケアがもう少しあれば、防げたケガもあったのではないか。
 たとえば、こうした超初心者の多くは道具をレンタルする。道具レンタルと初級レッスンを連動させるような配慮はできないものだろうか?
 これはスキー場を利用するすべてのお客様の安全確保にもつながることなので、ぜひスキー場とレンタル業者が連動して対応して欲しいと願う。
 余談だが、同じことが増加しているレンタカー事故でも言えるのではないか。ある宿泊施設の経営者の話では、今シーズンは圧倒的にレンタカー利用者のゲストが増えたそうだ。しかし、初めて雪を見たような人が雪道を運転すればどうなるか? 事実、倶知安厚生病院でも外国人ドライバーのレンタカー事故の患者が目立っているという。
 さらに、車利用者の増加で、各スキー場やヒラフなどの宿泊施設の駐車場問題にも影響が出ているという声も聞く。
 骨折や腱の断裂などというケガを負えば、その時点でシーズンは終了してしまうし、その後の生活にも影響を及ぼす。お互いに十二分に注意して、シーズンを最後まで楽しみたいものである。

追記
 この原稿を書いている最中に、友人がコース外滑走で怪我をした。彼はニセコ通いも長く、コース外滑走の経験も豊富。以下は本人の談である。
 アンヌプリ山頂から北斜面の新雪を滑走中、雪に隠れていた樹木に右足を挟み、転倒。足首をひねったが、軽傷と考え、同行者を先に行かせた後、予想外の重傷を自覚。苦労の末、冬季閉鎖中の道道まで下ったところで、自力移動を断念。本人がグランヒラフのパトロールに電話をし、救助を要請。山頂より6名くらいのパトロールが降りて来て、救助ボートに回収。ワイス側へ運び、管理道路からスノーモービルで花園へ搬送。そこからは本人がタクシーで倶知安厚生病院へ向かった。骨折のようだが、本格的な治療は地元へ戻ってからだという。
 ちなみに、コース外でパトロールの救助を要請した場合、救助費用が請求される。

ぬまじり・けんじ
1962年、神奈川県川崎市生まれ。帽子職人、編集者。40歳を過ぎて出会ったテレマークスキー。東京で編集の仕事をしながら、年に数日の滑走では“間に合わない”と感じ、2012年ニセコへ移住。自宅でオーダーメイドの帽子屋『ザ・マッドハッター・ニセコ』を営みながら、冬はテレマーク修業に勤しむ生活をおくっている。